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最高裁判所第一小法廷 昭和44年(オ)231号 判決 1969年9月18日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人岡林濯水の上告理由について。

所論は、訴外長野和市に雇われていた訴外和田修利が右長野の保管下にある自動車を運転中に起こした事故による損害賠償の責任を問うにあたつて、上告会社をもつて自動車損害賠償保障法三条にいう「自己のために自動車を運行の用に供する者」にあたるとした原審の認定判断に、経験則違背および理由齟齬の違法があるという。

しかし、右長野は、もと上告会社に自動車運転手として勤務していたもので、昭和二六年一月頃上告会社を退職したのちも、自動車運送事業を経営するために必要な運輸大臣の免許は受けないまま、退職時に上告会社から代金は月賦払の約定で譲り受けた自動車やその後に買い換えた自動車を使用して、専属的に上告会社の製材原木や製品の運送に従事していたこと、本件加害自動車も、右の用に供するために買い換えて長野により使用保管されていたもので、購入先に対しては割賦代金の支払のために上告会社振出の約束手形が差し入れられ、上告会社は、各期日に右手形金を支払つたほか、運行に要するガソリン代や自動車修理代等も支払い、これらに相当する金額を上告会社から長野に支払う運賃から差し引いていたこと、本件事故時においては、残債務があつて加害自動車の所有権はなお訴外株式会社神戸マツダモータースに留保されていたが、自動車登録原簿には使用の本拠の位置として上告会社の所在地が、また自動車検査証には使用者として上告会社が記載され、車体にも「西森製材」と上告会社の商号が表示されていたこと、そして、本件事故は、長野の被用者である前記和田が右自動車を運転して上告会社のパルプ材を運搬したのち上告会社へ帰る途中で起こしたものであること等、原審の適法に確定した事実関係のもとにおいては、上告会社をもつて、本件加害自動車の運行について事実上の支配力を有し、かつ、その運行による利益を享受していたものと認めて、自動車損害賠償保障法三条にいう「自己のために自動車を運行の用に供する者」にあたると解し、本件事故による損害につき、同条による上告会社の賠償責任を肯定した原審の判断は、正当として是認することができる。

所論引用の判例は事案を異にするので本件に適切でなく、原判決に所論の違法は認められない。それゆえ、論旨は採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岩田 誠 裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 松田二郎 裁判官 大隅健一郎)

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